脳神経外科速報 vol.20 no.2 2010.2.

1 戦略のヒント1 国内有数の症例数

【永廣】河野先生は聴神経鞘腫手術のエキスパートですが,手術件数はどのくらいですか?
【河野】われわれの施設では,週に2 ~ 3 件,小脳橋角部腫瘍の手術を行っており,年間で100 ~120 件になります.このうち聴神経腫瘍は約3/4 を占めており,年に60 ~ 90 件ぐらいのペースで  手術しています.手術経験数は小脳橋角部腫瘍550 件,聴神経腫瘍は400 件を超えています.
【永廣】日本でも有数の症例数ですが,紹介患者さんが多いですか?
【河野】耳鼻科の先生からの紹介が結構多くあり,また最近は脳外科の先生からの紹介も増えてきました.インターネットで調べて来られる方も少なくありません.

2 手術適応

【永廣】では,まず手術適応についてはどのようにお考えですか?
【河野】これは施設によって異なると思いますが,われわれの方針を図1 に示します.われわれが本当の手術適応と考えているのが,50歳未満くらいの若い患者さんのKoos Ⅲ以上,つまり腫瘍がちょうど脳幹に当たっている,あるいはそれよりも大きなものです.また,聴力温存企図であれば,脳幹に当たらないKoos Ⅰ・Ⅱも手術適応と考えています.ですから,若い患者さんでもすでに聴力がなくなってしまっており,小さい腫瘍の場合は原則として経過観察としています.ただ,経過観察と思っていても腫瘍の成長スピードが速いケースもあり,これはやはりどこかで手術する必要が出てきます.また,65 歳以上でKoos Ⅳ,つまり腫瘍が脳幹に食い込んでいる4cm クラスの大きなものは,内減圧を中心とした手術を行っています.実際には,8 割方が若い患者さんの脳幹を圧迫しているケースです.

3 手術ポリシー

【永廣】先生の手術ポリシーをお聞かせください.
【河野】われわれは,再発しない切除をしたうえで顔面神経麻痺を出さないことが一番のゴールと考えています.全摘にこだわるよりは機能優先の切除を行っておりますが,それでも常に97%以上は取るようにしています.基本的にはいつも全摘を目指しているわけですが,持続モニタリングの反応が低下してしまったケースや,内視鏡での顔面神経の所見が薄くて広がりが強いような場合,あるいは顔面神経の走行次第では,内耳孔付近に膜状に腫瘍を残すことはやむなしと考えています.
 腫瘍の摘出にあたって最も大事なのは,内耳道の中は全摘するということです.聴神経腫瘍は内耳道の中に発生した腫瘍ですので,ここを取り残していくらcisternal portion を取ってもトカゲのしっぽ切りと一緒で,当然再発する可能性があります.ですから,われわれは内耳道の中を集中的にきちんと取るようにしています.

【永廣】顔面神経の機能を最優先にされているんですね.機能障害なく剥げる場合は全摘して,癒着等でなかなか剥ぎにくい場合はそこをうまく薄く残して再発しないようにするということですね.
【河野】はい.また,われわれが特徴的だと思っているのは,顔面神経の持続モニタリングを行っていることです.詳しくは後述しますが,顔面神経の起始部を確認したときに電極を留置し,術中は1秒に1 回,顔面神経が常に刺激されている状態にしています.このほか,特に大きな腫瘍の場合は,内視鏡を使って顔面神経の走行を裏から確認したり,顔つき,つまり神経の広がり方や薄さを視覚的にもとらえるということも行っています.手術成績は,1 年後の顔面神経機能温存率(House&Brackmann grade 1・2)が98%です.


図1:手術適応

・ 若い患者のKoosⅢ以上の腫瘍
・ 若い患者の聴力温存企図のKoosⅠ・Ⅱ
・ 若い患者の成長スピードが速いKoosⅡ
・ 高齢者のKoosⅣ(4 cmクラスを内減圧中心)

若い患者には原則的に放射線治療はすすめない.小さくて有効聴力がなく,成長スピードが遅ければ経過観察.高齢者には手術は最後の選択(経過観察・放射線治療が主体).大きい場合に仕方なく短時間の手術.

4 顔面神経の走行パターン

【河野】今までの症例はすべてデータベース化していますが,顔面神経の走行パターン(図2)もこれに含めています.通常の走行パターンはB が一番多いかと思います.その次に多いのがわれわれが「大回りパターン」と呼んでいるC です.なかには,三叉神経よりも上のレベルまで行っているものもあって,これが最も手術が難しいのではないでしょうか.また,頻度は最も少ないですが,Aのように最短距離を走行するものもあります.蝸牛神経と同じような方向で顔面神経が通っていると上のほうがそぎ取りやすく,大きな腫瘍でも全摘のうえ聴力が温存できるケースが多いです.ですから,顔面神経の走行によって腫瘍の取り方は異なります.まれに腫瘍の背側(手前)を走行しているケースもあります.
 大きな聴神経腫瘍に対する基本的な手術の方法は,内減圧を進めて,脳幹側ではくも膜をキープして腫瘍を引き出してゆき,これを繰り返します.Cistern のところで,奧に顔面神経をとらえるかたちをとっています.



図2:顔面神経の走行パターン


5 術中神経モニタリング

【永廣】先ほど特徴的とおっしゃったモニタリングについて教えてください.
【河野】われわれが行っているモニタリングの種類には図3 のようなものがあります.顔面神経モニタリングだけでも3 種類あり,これらを使い分けています.聴力のモニタリングはABR が主ですが,本当に小さい腫瘍のときはCNAP も使っています.また,多くの場合は脳幹を圧迫しているわけですから,SEP も取っています.記録電極の位置は図4 に示しましたが,顔面神経については前頭筋,眼輪筋,口輪筋の3 カ所( )です.この対側にreference を置き( ),あと三叉神経支配の咬筋にも置きます( ).顔面神経モニタリングの詳細については図5 に示しました.
【永廣】私も,先生に教えていただいてから持続刺激を始めています.たいへん良い方法だと思いますが,詳しく教えていただけますか.最初に顔面神経のroot exit zone を見つけて,そこに電極を留置するということですね.
【河野】持続刺激には,釣り鐘型の電極を留置して用いています(図6).これは現在は市販されてい ないので当科のME さんが自作してくれていますが,反応の変化を見ながら剥離できるので,これこそが本当の意味での顔面神経モニタリングだと確信しています.また,愛用している剥離子の先端と後端を除いて絶縁コーティングしており,電気化して剥離を行うこともあります(p. 143 参照).この方法を用いることによって,手術時間をかなり短縮することができます.特に,内耳道内などで顔面神経を探しながら剥離する場合には非常に有効です.

6 M-max と温存率

【永廣】持続モニタリングは,どこまで下がれば大丈夫かがわかりにくく,手探りの状態で行っている 施設も多いのではないでしょうか.
【河野】おっしゃるとおりだと思います.われわれもそうだったのですが,自験例で安全域を調べてみ ました.われわれはM-max と温存率の相関(図7)を顔面神経麻痺の目安としています.電極を置いて刺激を上げていった際の最大振幅をM-max と呼んでいます.
【永廣】正常なときの最大値のようなものですね.
【河野】そうです.手術を行っていて,途中で反応が落ちたと思ったら,M-max を取ります.そして,初めと途中の段階での比をとります.われわれの検証では,1 つの目安として,温存率が40%以上あれば,まず大丈夫であろうと考えています.
【永廣】大ざっぱに言うと,半分以上あればよいということですね.
【河野】そうですね.もう1 つは,M-max の絶対値です.3 つの筋肉のうちの1 つが800μV 以上,絶 対値として残っていれば,大丈夫だと思います.
【永廣】音は参考程度にしか使わないのですか?
【河野】フリーランとして有効ですし,持続刺激の反応音についても,技師の方が波形をしっかり見てくれていますが,こちらも音を聞いていておかしいと思ったときは,「大丈夫?」と確認しています.


(1)顔面機能保存
 ・フリーランの顔面筋電図
 ・ボールペン型電極や電気化した剥離子による随意刺激顔面筋電図
 ・釣り鐘型電極による持続刺激顔面筋電図
(2)聴力温存
 ・ABR(聴性脳幹反応)
 ・CNAP:蝸牛神経(聴神経)上の活動電位
 ・蝸電図(ABRのⅠ波に相当)
(3)三叉神経の確認や保存
 ・随意刺激の咬筋の筋電図
(4)脳幹を圧迫する大きな腫瘍の場合
 ・SEP
図3:術中神経モニタリング
・フリーラン:自発の顔面筋電図
 意義: 顔面神経が刺激されたことを漠然と知る
・ 随意刺激:ボールペンあるいは電気化した剥離子を用いて顔面神経を刺激
 意義:顔面神経の位置を探したり,確認する
・ 持続刺激:釣り鐘型電極を顔面神経起始部に留置して1Hzで連続刺激
 意義: 顔面神経の反応の変化をチェックできる警告を発しうる真の意味でのモニタリング
図5:術中顔面神経モニタリングの種類と意義
Ref.
図4: 顔面神経モニタリングの設置位置



7 術前検討のポイント

【永廣】術前検討はどのようにされていますか.
【河野】まず,これは当然のことですが,年齢,位置,大きさ,聴力の状態によって作戦を変えます. また,cystic かsolid かによっても作戦が多少異なります.Cystic のほうが再発しやすいと考えています.また,cystic だと放射線治療も効きにくいわけですから,より再発を起こさないような摘出が求められると思います.ですから,内耳道のfundus への伸展の具合などもよく見るようにしています.
 われわれは,原則的にはlateral suboccipital approach が聴神経腫瘍の手術には一番合っていると思っていますので,90 数%はこのアプローチで行っています.聴力温存を企図するかどうかはかならず検討しなければいけません.前庭機能も含め術前にきちんと耳鼻科的評価をしており,機能が保たれているものについては守る努力をしています.また,水頭症やhigh jugular bulb の有無,sigmoid sinus の左右差があるかないかによっても方針は変わってきます.術前には,図8のような側頭骨CT を撮って確認しています.

【永廣】ありがとうございました.ではここからは症例に沿って,聴神経腫瘍手術の具体的な手順についてお話しいただきます.



図6:持続モニタリング
M-max:刺激部位の顔面神経束全体を興奮させるに十分足る電流刺激を行い,顔面筋全体が最大限に興奮したときに得られる筋電図反応の最大振幅.電極のずれや反応低下のチェックに用いる.
温存率:腫瘍を取り終わったときのM-maxを最終M-maxとし,腫瘍を取り始める前のコントロールと比較してどの程度温存できているかの割合.

図7:M-maxと温存率
     最終M-max(μV) ×100(%)
腫瘍を取り始める前のコントロール(μV)

図8:S状静脈洞の左右差(上:脳血管撮影,下:側頭骨CT)

聴神経腫瘍手術の流れ

全身麻酔下にモニタリング設置
体位(側臥位)
開 頭
硬膜内操作
髄液漏対策
閉 頭
手術室CT でトラブルのないことを確認
麻酔覚醒
顔面神経・三叉
神経運動根・
ABR・SEP
手術適応の検討
アプローチの選択
腫瘍が大きい場合は大後頭孔開放を追加
●硬膜切開,小脳の保護
●髄液の排出
●小脳の牽引開始(脳べらは7 分引いたら1 分休める)
●ⅩⅠ脊髄根で顔面神経の刺激電極の出力確認
●腫瘍表面を電気刺激後,腫瘍を内減圧
●顔面神経持続刺激開始
●十分に腫瘍のボリュームを減らした後,内耳道後壁の開放
●腫瘍切除終了
●内耳道のパッキング
●エコーで小脳にトラブルのないことを確認
●硬膜閉鎖:ネオベール,フィブリングルー
顔面神経持続刺激
●原則的にはlateral suboccipital approach
●再発症例は以前に使われていないアプローチを考慮

1 術前検討(術前画像)

【永廣】症例は,20 歳と若い患者さんです(図1).
【河野】はい.ですから,やはり聴力は守ってあげたいので,術前のABR は微妙でも,術中にしっかりとしたV 波が出ていれば,それが途切れるまではがんばるという方針としました.
【永廣】V 波があればモニタリングはできますしね.
【河野】はい.ただし,ちゃんと腫瘍を取って顔を曲げないことがこの人のベストトリートメントと考えて,それを最優先と考えました.
 この方は左側のlateral suboccipital approach を行いましたが,イラストを組み合わせながら説明していきます.まず,先ほどご説明したとおり,全身麻酔下にモニタリングを設置します.体位は図2 のような側臥位で,症例によって頭部の位置を変えます.小さな腫瘍など,内耳道の中だけが勝負というときは,頭部を10 ~ 20°床のほうに回旋します.大きな腫瘍で脳幹のほうがメインの場合は,基本的に水平にしています.それから,下顎の余裕は必ず確認して,多少手術がやりにくくなっても,下顎と首の間には1 横指分は確実に入るようにしています.

【永廣】開頭はどのようにされますか.私は大きめに開けるようにしています.
【河野】私も同じです.内耳道を広く開放するためには,聴神経腫瘍のkey hole surgery はむしろ避け
るべきだと思っています.開頭のポイントは椎骨動脈損傷の回避です.図3 のように四角形に開け,それに合わせて弧状に皮切を置いています.これは,万一,顔面神経にトラブルがあった場合,前方に大耳介神経があるのでそれを取りにいけるということ,もう一つは,開頭野の手前に皮膚があると内耳道を削るときに妨げになるというのが理由です.

【永廣】下の筋肉も同じラインで切りますか.
【河野】われわれの方法は非常にシンプルで,図4のように頭半棘筋,胸鎖乳突筋と並行に切ってコ の字型にして翻転します.皮膚の切開線と筋肉の切開を一緒にすると筋萎縮する例を幾つか経験していますので,皮膚と筋肉は違う形に切っています.また筋膜はU 字型に採取しています.
 開頭の際に指で骨を触ってみると,ちょっとしたくぼみが上項線よりも少し下ぐらいの位置にあります(図5).その部分とasterion にburr hole を開けると,S 状静脈洞と横静脈洞が少しだけのぞいている状態になります.ただ,asterion の位置は個人差がありますので,状況に応じた対応が必要になります.


症例:20 歳,女性.軽い難聴を自覚し受診.
左聴神経腫瘍(32 mm).PTA:5 dB,SDS:100%,ABR V 波は微妙に認められる.
2 体 位
3 開頭(皮切)〔右側〕
4 開頭(筋肉切開)〔右側〕
5 開頭(burr hole の位置)〔右側〕
6 硬膜切開〔右側〕
7 通電テスト〔右側〕
8 持続モニタリングの設置
9 くも膜と腫瘍を剥離
10 腫瘍の「串刺し」
11 内耳道後壁の削除範囲〔右側〕
12 コットンボールによる止血
13 術後画像


【永廣】硬膜切開はどのようにされますか.
【河野】ドプラで確認してS 状静脈洞が確実に見えてから硬膜切開を行います.いろいろなやり方が あると思いますが,私は図6 のように,コの字型の切開を行っています.図6 右のように吊り上げておいて,コラーゲンスポンジで常にウエットにしておくと縮まないので,筋膜などの補填を必要とせずにそのまま硬膜縫合ができます.またこのかたちだと,S 状静脈洞の近くで縫わなくて済むという利点もあります.
 メスで切っていき,出血があればそのたびに,縮みがないように少しだけ焼いていきます.小脳は綿がくっついたりするのを防ぐため,サージセルⓇとコラーゲンスポンジで表面を保護しておきます.

【永廣】小脳の牽引は注意が必要ですね.
【河野】手術合併症として最も注意すべきなのは小脳の腫脹です.中に出血を起こしたりすると命に もかかわりますし,意識障害や四肢麻痺の可能性もあります.われわれはオペナースの協力も得て,retractorを7 分以上続けて引かない,7 分引いたら1分休むことで予防しています. 
【永廣】髄液の排出には持続吸引を置いていますか.
【河野】いいえ.最初にcisterna magna から抜いて,それから小脳を引き,その後改めてlateral   medullarycistern から抜くというシステムにしていて,はじめにおおよそ吸ってしまいます.
【永廣】大きな腫瘍の場合はどうされていますか.
【河野】その場合は大後頭孔も開けますので,硬膜の下のほうに小さな穴を開けて,そこで水を抜いてから硬膜を切開しています.その後,ボールペン型の刺激電極を用いて通電テストを行います( 図7). それから,subarcuate artery は聴力に関係ありませんので焼いてしまいます.そして二重硬膜を手前に引いておき,腫瘍の表面を電気凝固して切開し,内減圧を行います.
【永廣】内減圧のポイントは?
【河野】最初は吸引管を細かく動かして腫瘍を壊しながら吸引していきます.それから,腫瘍を剥離子
で起こして,どんどん減圧を進めます.安全なところをいかにスピードを出して内減圧するかが大事だと思います.ある程度減圧できたら第Ⅶ,Ⅷ脳神経を見にいきます.

【永廣】逆に言うと,Ⅶ,Ⅷを見ないことには,内耳道は開けないんですね.
【河野】そうですね.くも膜を手前に持っていって,綿をすべり込ませておくと,その綿の底を引っ張り あげれば腫瘍が出てきます.とにかく顔面神経が手前を走行していないかどうか,これだけは確認して,どんどん持ち上げていきます.
【永廣】顔面神経の根元が見えたら持続モニタリングを置くんですね(図8).
【河野】はい.第Ⅶ脳神経の上に置いて綿で固定します.
【永廣】ここは,くも膜と腫瘍を剥がしていますね(図9).
【河野】はい.これはスピードを出すためには欠かせない手技で,適宜第Ⅶ脳神経を刺激して確認しながら,剥離子やバイポーラで腫瘍を串刺しにして引っ張り出すと,持ち上がってきます(図10).
【永廣】なるほど,引っ掛けやすいですね.このときに顔面神経の反応もチェックしているんですね.
【河野】はい.持続刺激を行っていますので,安全性を確認しながら進めることができます.
【永廣】内耳道の中はどのように進めますか.
【河野】内耳道のドリリングに際しては,聴力保存が必要なケースでは前庭や総脚を開放することなく,なるべくdistal まで開けたいと思います.そのためには術前に側頭骨CT にて削る範囲を想定し,距離を計測しておきます.削り方としては,狭く浅くではなく,広く深く削ることが必要です(図11).光や道具の入り方が全然違ってきます.ですからわれわれは,high jugular bulb がない限り,内耳道の硬膜を半円状に180°出すという方針で行っています.
【永廣】腫瘍によっては非常に出血が多いケースがありますが,どのようにされていますか.
【河野】基本的には電気凝固を行っています.持続モニタリングをしているので,反応が落ちたらすぐにわかります.もちろん,焼いてはいけない場所もありますので,そのような場合はサージセルⓇのコットンボールで物理的にパッキングします(図12).また,フィブリングルーのA 液をコットンボールにつけて用いることもあります.
【永廣】腫瘍摘出後の硬膜縫合はどのようにされていますか.
【河野】硬膜は筋膜をほとんど使わずに,連続縫合で縫って水を入れ,エアを抜きwater tight に縫合しています.また,フィブリングルーやネオベールで硬膜を閉鎖することで,髄液漏対策を行っています.術後のMRI を図13 に示しますが,全摘されているのがお分かりいただけるかと思います.この患者さんは残念ながら聴力温存はできませんでしたが,顔面神経麻痺は起こりませんでした.
【永廣】先生の手技は安全かつ摘出度が高く,また患者さんの満足度も非常に高い手術で,たいへ ん感銘を受けました.今日はありがとうございました.


インタビューを終えて

河野先生が手術される聴神経鞘腫の手術症例数は国内ではトップクラスです.先生の聴神経鞘腫に対する手術戦略は,実に明確です.顔面神経機能を最大限に温存し,再発がない摘出術を目指し,さまざまな手術器具,神経機能モニター,摘出手技を工夫し駆使しておられます.それぞれのステップごとに,わかりやすく解説いただいたので,読者にも大いに参考になると思います.河野先生は学生時代,野球に打ち込みポジションはキャッチャーだったそうです.先生の手術を拝見しますと,ピッチャーや打者の心理と実力を冷静に読み,絶妙の配球をして相手を手玉に取っておられたことが容易に想像されます.(永廣信治)



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